(このブログはこちらのブログの続きです)
こんにちは。エネルギーチームの鈴木かずえです。

6月19日の、韓国新大統領がこれからは、原発にも石炭にもたよらないとする「エネルギーシフト宣言」をしました。(以下のビデオをぜひごらんください)

これを受けてのイベント報告の後篇をお送りします。前編こちら 

(27日の発表および来日中のインタビューをまとめたものです)


4. 新政権のエネルギー政策

パククネ大統領の辞任のあとの大統領選挙は5月にありました。主な候補者は5人でした。
当選したムン・ジェイン氏(上スライド一番左)の原発についての公約は、新しく作らない、寿命延長しない、脱原発へのロードマップをつくる、規制を強化する、40年で脱原発を達成する、というものでした。

「クリーンなエネルギー」政策が「いいね!」

ムン・ジェイン氏は選挙キャンペーンとしてインターネット・ショッピングを模したウエブサイトを作りました。
あなたの好きな政策に「いいね」をつけるというもの。
外交や経済政策などさまざまな政策が並ぶなかで、最も「いいね」がついた政策は「クリーンなエネルギーの韓国をつくる」という政策でした。28万人以上が「いいね」しました。

これには、とても驚きました。
これまで、選挙の争点は、北朝鮮にどう対応するか、とか、経済をどうするか、というものが主で、エネルギー政策が争点になったことはなかったからです。

6月19日のエネルギーシフト宣言

こうして、ムン・ジェイン大統領がうまれました。
ムン・ジェイン大統領は、韓国の最も古い原発、古里(コリ)原発の閉鎖式典で「エネルギーシフト宣言」を行いました。(以下引用)
「これまで,わが国のエネルギー政策は,低コストと効率性を追求してきました。
発電単価の低コスト化を最優先し、国民の生命と安全を後回しにしてきました」

「原発中心の発展政策を廃棄し、脱原発します。準備中の新規原発の建設計画は全面白紙化します。 原発の設計寿命を延長しません」

「産業界は、脱原発をめぐって電力需給と電気料金を心配しています。莫大な閉鎖費用を心配する意見もあります。
しかし、脱原発は逆らえない時代の流れです。 数万年この地で生きていく我々の子孫らのため今始めなければならないことです」

「多くの困難があることでしょう。しかし、明らかに進まなければならない道です。健全なエネルギー、安全なエネルギー、クリーンなエネルギーの時代に進みましょう。国民の安全と生命を最高の価値と考える安全な大韓民国を作ります」

新大統領は、以下を約束しました。

  • 原発建設計画の撤回(6基)
  • 老朽原発の寿命延長をしない
  • ウォルソン1号機の早期閉鎖
  • 新コリ原発5、6号機増設計画については、市民が決める
  •  脱原発ロードマップを策定する


新しい計画


これにより、改定中のエネルギー計画では、運営中がさらに1基減り、計画中は撤回となります。
建設中の原発については、5基のうち2基が撤回になるか、どうかというところです。

5.ロードマップ

2017年8月から10月に、新コリ原発5、6号機増設計画について、意思決定されます。
実は、選挙公約に基づけば、撤回、のはずなのですが、当選後、この公約について、産業界からの反発がありました。
そこで大統領は「5、6号機増設については人々の判断にゆだねる」とう戦略に出ました。
市民に「市民陪審員」のような形で参加を求め、増設賛成、反対双方の専門家の意見を聞いてもらい、議論してもらって決める、というものです。

その結果に基づいて、第8次電力需給計画を策定します。
自然エネルギーに関しては、2030年に20%を目指しています。

2018年の1月にエネルギー委員会を設立し、需給見通しや、自然エネルギーについて計画をつくります。

それらを考慮し、2018年12月までに第3次国家エネルギー基本計画が策定されます。

国民一人あたりの電気使用量がダントツの韓国

新大統領がエネルギーシフト宣言をして以来、最も聞かれる質問は「それは可能だと思うか?」というものです。

わたしはいつも自信を持って「YES」と答えています。そのわけをこれからご説明します。

このグラフは、国民一人あたりの電気使用量です。
青い線が韓国で、アメリカなどを抜いてダントツです。

なぜ、なのでしょうか。


産業界による電力消費増が原因
それは、産業界による電力消費増が原因です。

OECD諸国の電力の使い方を見ると、産業界、一般家庭、そして商業施設や公共施設での電力の使用量はほとんど同じです。
ですが、韓国の場合は、三者の伸び率は一緒ではなく、産業界が飛び抜けています。

販売電力の56%が産業用、そして産業用電力料金は一般家庭用より割安


この表は、用途別の販売電力量です。
全体の56%が産業用を占め、一般家庭用は、13.6%です。
しかし、電力料金は、一般家庭用が約12円/kwhに対し、産業用は約10円/kwhなのです。

電力を使っているのは産業界


韓国の一般家庭は、電気をそれほど使っていません。
OECD諸国の平均の半分くらいです。

電気を大量に使っているのは、産業界なのです。

トップ10企業が韓国の全家庭と同じ電力量を消費


トップ10企業は原発8基分、または火力発電16基分の電力を消費


電力需要見通しの変化

上の灰色の線が、前政権による見通しです。
下の赤色の線が、新政権による見通しです。
大きな差があります。
6.主な推進力

どうしてこのような宣言を新大統領から引き出せたか、その推進力となったのは何でしょうか。


韓国には、1980年代から続く反核運動があります。
ただ、核廃棄物という課題に取り組む運動が主なで、
全国的な運動ではなく、地域での運動が中心でした。
また、取り組んでいるグループは、環境保護NGOと地域住民のグループがほとんどでした。


しかし、東京電力福島原発事故が転換点となりました。
放射能汚染や食品汚染に対する一般の懸念が高まりました。
取り組む課題も、核廃棄物だけでなく、原発の寿命や規制の問題など、多方面に広がりました。
取り組むグリープも、生活共同組合など多様な団体に広がり、それが繋がるようになりました。
「反原発」から、具体的に、原発の段階的廃棄に取組む「脱原発」運動に変化しました。

そして、韓国では、脱原発運動を政治の課題として取り組んできました。
2014年の地方選挙で、新規原発建設予定地となっていたサムチョクと原発現地に近いプサンでは、原発を大きな争点としました。
2015年には政治に、コリ1号機閉鎖を求める大きな運動を展開しました。
2016年の総選挙でも、原発を大きな争点としました。
2017年、大統領選でも、エネルギー政策が争われました。
投票は、市民の最強の武器です。
2012年の総選挙では国の東半分以上で原発推進の議員が占めていましたが、2016年の総選挙では、大都市圏や、コリ原発に近いプサンで脱原発を掲げた議員が支持を拡大しました。

大統領選挙


大統領選挙でも、大都市圏やプサンで脱原発を訴えた新大統領が支持されました。



2014年にはサムチョクで、2015年にはヨンドクで、住民投票が行なわれました。

中央政府は住民投票を認めず、住民簿などの提供も拒否したのですが、地元住民が自主的に行い、個別訪問などで住民簿をつくり、住民投票を実現させました。
その結果、サムチョクでは85%、ヨンドクではサムチョクの結果も影響して92%が原発建設に反対という結果になりました。
法的な拘束力はありませんが、社会的には大きな影響となりました。

パククネ大統領の辞任を求める市民のデモは、脱原発に直接関係はありません。しかし、キャンドルライト革命と呼ばれたそのデモは、民主主義を求める、という点で共通しています。

さいごに…

関西電力大飯原発の運転停止の判決から次を引用したいと思います。

「被告は本件原発の稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、(中略)コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である

判決文は、韓国語に翻訳され、韓国で脱原発に取り組むNGOの間で広く読まれています。
とくに、この太字の部分は、韓国の脱原発運動に大きな影響を与えました。
韓国の脱原発運動の心の支えになっています。
「目覚めた市民がつながりあえば、それは民主主義を守る砦となる」
コリ原発で事故があったら、その影響を日本が受けることからわかるように、日本の原発で事故があれば、韓国も影響を受けます。
中国の原発もまた同じことです。

ノ・ムヒョン大統領は「目覚めた市民がつながりあえば、それは民主主義を守る砦となる」と言いました。

日本、韓国、中国の人々がつながりあい、東アジアのすべての原発をなくしていきましょう。



7月27日のトークイベントのもようは、グリーンピース・ジャパンのフェイスブックブックからご覧になれます。

 

発表資料はこちら
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発表者紹介:ダウル・チャン/グリーンピース東アジア・ソウル事務所(韓国)・エネルギー担当

経済学の学士号及び国際政策と再生可能エネルギーの分野でそれぞれ修士号を取得。政府機関、国連及びシンクタンクでの勤務の後、東京電力福島原発事故以降、グリーンピース東アジアのソウル事務所にて、韓国における原発の段階的廃止のキャンペーンを担当、グリーンピースの福島県での放射能環境調査にも複数回参加、現在に至る。


お礼

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