SPEEDI検証シリーズ(9) 

 

初公開、情報公開で入手した予測図

 

大飯原発が事故を起こしたら、京都に広範囲の放射能汚染が広がるというデータが公表された。グリーンピースや京都の住民らが、京都府に情報公開請求をし、独自に入手した放射性拡散物質の予測図が示した結果だ。

 

大気シミュレーションモデルによる放射性物質拡散予測

最高濃度分布図(大飯発電所)甲状腺被ばく等価線量

 

この放射性物質拡散予測図は、昨年京都府の隣にある滋賀県が、独自に行ったシミュレーションによるもの。滋賀県はこの結果を昨年すでに公表したが、他府県に関連する部分は非公開としていた。

その後、滋賀県が他府県にもデータを送付していたことを知ったグリーンピースが、周辺の住民らに呼び掛けて、近隣府県に情報公開請求を行った。福井県、兵庫県らは、県民に混乱を生じさせる(福井県)ことや、他県の調査であること(兵庫県)を理由に非公開としたが、今回、京都府が公開に応じたという経緯だ。大阪府はすでに滋賀県からデータ提供を受け、公表している。

滋賀の放射性物質拡散予測 周辺自治体、対応割れる (神戸新聞5月18日)

 

ヨウ素剤服用基準を超える汚染が修学旅行地にも

公開された資料が示すものは、京都府の大部分が汚染される可能性だ。

この地図で、色がついている部分は、国際原子力機関(IAEA)の基準で「ヨウ素剤の服用」が必要となる、甲状腺被ばく等価線量50mSv(ミリシーベルト)を超える地域だ。

甲状腺被ばく等価線量 

地域 

主な観光名所 

500mSv 以上

南丹市の一部

 

100mSv以上500mSv

右京区のほぼ全域、北区と亀岡市の一部、南丹市の一部

金閣寺、上賀茂神社

50mSv以上100mSv

京丹波町・南丹市・亀岡市・北区・左京区・上京区・中京区・下京区・西京区・東山区・山科区・向日市・長岡京市など

銀閣寺、平安神宮、三千院、下鴨神社、京都御所、京都御所、清水寺、祇園など

*注:今回公開された資料では境界が明確ではないため、地域の区分などには誤差がある。 

50mSv以上の地域には京都の主要な観光名所も含まれる。日本でも50mSvの甲状腺被ばくが予想される場合にはヨウ素剤の服用をするという基準を現在政府が検討しているが、予測図が示す結果は、万が一のときには修学旅行地にもヨウ素剤の配付が必要になるというものだ。

今回、情報公開された資料の中には、滋賀県が京都府にこのシミュレーション結果を送った際のメールも存在する。


「このシミュレーションでは、『屋内退避』や『ヨウ素剤の配付』が必要となる甲状腺線被ばく等価線量が50mSvを超えるエリアは、広範囲におよぶ結果となっています」とあるが、京都府への影響が大きいことを配慮しているのであろう。

 

地元に、京都府が含まれるのは当然では?

この予測図を見ると、大飯原発で事故が起きた際に、北から北西の風向きであれば、福井県だけではなく京都府への影響が高いことがわかる。

福井県知事は、関西の都道府県について「電力消費地」であることから、再稼働に慎重な姿勢に不快感を示しているが、事故時に影響がある地域だという点も忘れないでほしい。

周辺自治体の知事らがこの予測図を見て、簡単に再稼働を許せるわけがない。

日本の伝統、文化、観光を支える京都が汚染されるとなれば、なおさらだ。

 

福井県も、国も大飯原発事故時のSPEEDIデータを出すべき

今回、予測図が示した放射能汚染の可能性は驚くべき内容だった。

しかし、もっと驚くことがある。それは、福井県も国もそもそも「大飯原発で福島第一原発事故と同規模の事故が起きたら被害はどうなるのだろうか?」という率直な質問に答える資料をまったく作っていないのだ。というよりも、作るのを拒み続けている。

滋賀県は、3月上旬から大飯原発事故時のSPEEDI予測を文科省に要請し続けている。しかし、3か月が経とうとしている今もまだ、政府はシミュレーションすらしていないとして、滋賀県へのデータ提供を拒んでいる

どんなリスクがあるのかを示さずに、電力が足りないとして再稼働を迫るのは、脅しに近い。政府は、まず大飯原発の事故時SPEEDIデータを公表し、住民にしっかりと再稼働のリスクを示すべきだ。

 


参考: グリーンピースは、昨年からSPEEDIをリスクコミュニケーションに使うべきと考え、全自治体での利用とデータの住民への公開を求めてきました。SPEEDI検証シリーズ 、ぜひご覧ください。

(0)グリーンピースの要請受けて、全原発SPEEDIデータ 文科省がウェブに公開 (2011年11月25日)

(1)「SPEEDI」をリスクコミュニケーションに使う (2011年11月30日)

(2)SPEEDIの過小評価と滋賀県の独自シミュレーション (2011年12月9日)

(3)初公開! 玄海原発事故SPEEDI、1時間で有明海・佐賀市・福岡市汚染の可能性 (2011年12月22日)

(4)京都府がSPEEDIデータを活用へ 大きな一歩 (2012年2月3日)

(5)大阪、滋賀は今こそSPEEDIを使え (2012年3月17日)

(6)大飯原発でも隠されるSPEEDIデータ (2012年3月27日)

(7)高浜原発事故で、京都が放射能汚染地域に?! (2012年4月3日)

(8)3か月も隠ぺいされ続ける大飯原発SPEEDIデータ (2012年5月18日)

(9)初公開、大飯原発事故で、京都観光地も汚染の可能性 (2012年5月25日)

(10) 大飯原発:福井県が黒く塗りつぶした放射性物質拡散予測図 (2012年6月19日)


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